スター誕生 　　　　
　 時空捜査局 事件簿
Time-Space Investigation Office Case Files
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　月神の研究
（Ｉｎ　ｓｅａｒｃｈ　ｏｆ　Ｍｏｏｎ　Ｇｏｄ）５９



　 緋色の女救出作戦
その５


　　 　 ○そしてだれもいなくなった

　魏志倭人伝は前回ざっと読んだところで終わってしまっている。 先に進むに進めない。 あの中にいる「緋色の女」に気付かず目の前を通り過ぎてしまったのだろうか。 このままでは、「そしてだれもいなくなった」で終わってしまう。 もう一度引き返して「緋色の女」と呼ばれるにふさわしい人物を見つけだそう。

　　　　　　『三国志、魏志倭人伝、東夷の条』原文、
「其八年、太守王到官。
倭女王卑彌呼與狗奴國男王卑彌弓呼素不和、遣倭載斯烏越等詣郡説相攻撃状。
遣塞曹掾史張政等因齎詔書黄幢、拜假難升米爲檄告喩之。
卑彌呼以死、大作冢、徑百餘歩、葬者奴婢百餘人。
更立男王、國中不服、更相誅殺、當時殺千餘人。復立卑彌呼宗女臺與、年十三爲王、國中遂定。政等以檄告喩臺與。
臺與遣倭大夫率善中郎將掖邪狗等二十人送政等還、因詣臺、獻上男女生口三十人、貢白珠五千孔・青大句珠二枚・異文雜錦二十匹。」

　以上の文中から女性を拾い出すと、倭女王卑彌呼、そして殉死した奴婢百餘人の内の人々、宗女臺與、そして男女生口三十人の内の何人か、ということになる。

　しかし、奴婢や生口には名前や資料もなく調べようがない。そしてそれからヒミコを除外すると臺與（とよ）しか残らないのである。 結論は、「そして、トヨが残った」ということになった。推理ゲームとしてはあまりにもあっけなく答えが出てしまってがっかりするが 「緋色の女」とはトヨであるらしい。

○スター誕生

　トヨは ヒミコの死後男たちが殺し合って治まらないのでヒミコの宗女として王になった。なぜそんなことになったのかといえば、 王位を争った男たちには ヒミコが担った大切な政（まつりごと）の儀式における巫女としての役割ができなかったからである。

　それができたのがトヨであった、むくつけき男どもが身体を赤く塗って神のことばを伝えても気持ち悪いだけでだれも服したくなかっただろう。 そこで最後の切り札として十三歳の宗女トヨが朱丹によって身体を赤く塗って登場すると人々はそのカリスマに打たれ受け入れたのだ。 かの女は邪馬台国の新たな スターであった。

　その見かけだけなら朱の女でも赤の女でも良さそうだがなぜかの女は「緋色の女」と名乗るのか。そこにトヨの込めた思いがある。 「色」抜きの「緋の女」でもないのは「色」に意味があるからにほかならない。 すでに月神研２６ で述べたように古代の継承者は 「依(yori)」を名前に持ち、 鏡の向こうの神の世界につながるためにその音霊を逆転した「色(iroy)」を用いたのである。 つまり、トヨは継承者であることを「色」によって示していたのだ。 そして、その前の「緋」は解字すれば糸と非になって「意図に非らざる」となる。

　ずいぶん無理のある読み方に見えても「緋色の女」をまとめて読むと 「意図にあらざる継承者の女性」ということになって かの女が自分の意図ではなく女王となったことを示唆しているのである。 封印が解けず鎖につながれているという表現もそのあたりと関係しているようだ。

　　　（つづく）

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