時空捜査局
事件簿
Time-Space Investigation Office Case Files
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月神の研究
（Ｉｎ ｓｅａｒｃｈ ｏｆ Ｍｏｏｎ Ｇｏｄ）９０
片目のジャック
その１７
○人類自立プロジェクト２
次の神の子の定例集会で人類自立プロジェクト２が提案される様子は 以下のようなものであった。
主はサタンに「この地に神を恐れ悪を避ける完璧で正しいわたしのしもべヨブほどの者がいないと気づいたか。おまえは、わたしをそそのかしてわけもなくかれを滅ぼそうとしたが、やつは高潔さを保ちおったぞ」
そしてサタンは答えた「皮には皮。人は命のためにはすべてを与えます。 しかし今あなたの手を伸ばしてかれの骨と肉を傷めてごらんなさい。そうすればかれはあなたの顔に向かってのろうでしょう」
主はサタンに言った、「よし、かれをおまえの手にゆだねよう。
ただし命は助けよ」
子供を自立させるのは親鳥が成長したことに気づいていない雛鳥を巣から追い出すようにむつかしいことである。 雛鳥は充分成長していないと落下して死ぬが成長しているものは必死にもがき翼を振って飛び上がるだろう。 かれらはそのとき、やっと自分の成長に気づき空の広さを知るのである。
サタンは前回ヨブの身体には手を出さないという言いつけを守ったが今回はその作戦は失敗だったからかれの肉体を痛めつけようと提案する。
それで身体中が腫れ物に覆われて苦しむヨブに妻が 「あなたはまだ清廉さを保ちつづけるの。神をのろってお死になさいな」と言う。
ヨブの持ち物をすべて奪い去る初めの災難の時に子供たちは死んだがかの女が生きていたのはこのことばが重要な意味を持つからにほかならない。 かの女を悪妻の代表として有名にしたこのセリフに対してヨブは 「きみは愚かな女たちのひとりのように語る。なに、神の手の幸は受けるのに、災は受けない？」と答えた。
この反語的な言い回しは英語のＷｈｙ ｄｏｎ’ｔ ｙｏｕ？構文のようで 「愚かなことを言うなよ、わたしたちは神から幸いを受けるのだから災いも受けようではないか」ということである。 またまた宗教家が絶賛して日々の説教に信仰の心構えとして引用しそうなセリフで感心してしまう。
しかし、このことばと妻のことばを発達成長の段階として比較すると 妻の方が発達しているように思える。かの女はまだ神に頼り切り主体性のない夫の態度に愛想が尽きて自立せよと迫り、 夫はまだ自立を恐れて親にすがって泣き叫ぶ子に近いように感ぜられる。 ヨブには地上の統治者として必要な自主性が欠けているようだ。
これには仕掛けた側もまた困ったことだろう。最も近い存在である妻を生き残らせてあのセリフを言わせてもまだ聞かないのだから。
（つづく）
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