○ヨブの反応

　第１章の終わり、２０、２１、２２節に突然襲った災難に対するヨブの反応が語られる。

『ヨブ記』第１章２０節


　この 英訳文は
　 Then Job arose, and rent his mantle, and shaved his head, and fell down upon the ground, and worshipped,
　和訳すると 「そのときヨブは起ち上がり、上衣をひき裂き、頭を剃り、地に伏して礼拝した」ということである。

　なぜヨブは上衣をひき裂き、頭を剃ったのだろうか。失恋して髪を切ったり ひいきの球団が負けたとき坊主になる人はいるし人生を捨てて仏門に入る人も頭を剃るけれどそれと似た行為なのだろうか。 ヨブの場合、泣いたり悲しんだとは書かれずただこのように反応している。 一般にはこんな目に遭えば悲嘆にくれるはずだという予断からかれもまた悲しみのあまりに上衣をひき裂き、頭を剃ったと解釈してすませてしまうことが多いようだ。 わたしも以前は深く考えずそう思っていた。 しかし、読み直してみると悲しみの表現としてこの行為は不自然である。腑に落ちない。この文から手がかりになりそうなことばを調べる。

m@`iyl (meh-eel')

このヘブライ語は英語のマントルで 地球の内部のマントルや袖無しの外套のマントの意味なのだが これは地位のある人の着るチュニックのような外衣ということだ。

　なるほど、次の節を読み合わせたときヨブの奇矯とも思えるこの行為の意味が解ける。

『ヨブ記』第１章２１、２２節

And said, Naked came I out of my mother's womb, and naked shall I return thither: the LORD gave, and the LORD hath taken away; blessed be the name of the LORD. In all this Job sinned not, nor charged God foolishly.
「そして言った、『わたしは裸で母胎を出たのだから裸であちらに戻ろう。主は与えそして取り上げられた。主の名は讃えられよう』 このすべてにおいてヨブは罪を犯すことなく神を愚かに非難することもなかった」

　ヨブの発したこの「裸で母胎を出たのだから裸であちらに戻ろう」ということばは今回の災難の意味を一瞬で洞察したから言えたのだろう。 主がかれを無一物に返すためにすべて奪い去ったことを使者たちの報告ですぐに察したので自分自身で地位あるものの着ける上衣を引き裂きその上、胎児の如く髪も剃ってしまったのだ。裸でもと来たところへ還る覚悟を示したのだった。子供たちも亡くなったので自分も死ぬと思ったわけである。

　大災難に対するヨブの反応とは主の力が一族に及んだことを知って自ら進んで無一物の裸になり地面にひれ伏して礼拝するというものであった。

　（つづく）

　

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