片目の男 　　　　
　 時空捜査局 事件簿
Time-Space Investigation Office Case Files
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　月神の研究
（Ｉｎ　ｓｅａｒｃｈ　ｏｆ　Ｍｏｏｎ　Ｇｏｄ）７３



　 　片目のジャック
その１


　　 　 ○片目の男

　その日、わたしはつれづれなるままにトランプの一人遊び（ソリティア）をしていた。するとふっとだれかがつぶやいているような気がした。
「あいつもまだ闇に閉じこめられたままだぜ」
「あなたはどなたですか」と問うと「片目の男」と応える。
「片目？」またまた素性のわからない依頼人らしい。 片目といえば、隻眼隻腕の怪人、丹下左膳、伊達政宗、柳生十兵衛、あるいは一時有名になったイスラエル軍のダヤン将軍などが頭に浮かぶ。

「絵札でおなじみのはずだ。」

　カードを机に並べてみると片目で描かれているのはダイヤのキングとスペードとハートのジャックしかない。
「きみたちにはジャックと呼ばれているよ」

　ジャックなら簡単に人物を特定できそうだ。 ダイヤのキングのモデルはローマ帝国のシーザーだということだが ブラックジャックとして特別視されるスペードのジャックはカール大帝の騎士、ホグラーとされている。 もう一人の片目の男、ハートのジャックは百年戦争のチャールズ七世の従者、通称ＬａＨｉｒｅ（ラハイアあるいはラ・イール）がモデルということだった。 あのジャンヌ・ダルクを信奉して助けた傭兵隊長、本名Etienne de Vignolle（エティエンヌ・ド・ヴィニョール）である。


「それではホグラーか、それともラ・イールか？」
と割に早く素性の洗い出しができてホッとした。


「そんなモデルなどはただの俗説にすぎない。 それよりわたしのもうひとつの目がどこを見ているかわかるかね」
「さあ…、なにか特別なものを見ているのですか」

「うむ、ただ闇 を見つづけているのさ」

　なんだか禅問答のようだった。

　（つづく）

　

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