時空捜査局 事件簿
Time-Space Investigation Office Case Files
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　月神の研究
（Ｉｎ　ｓｅａｒｃｈ　ｏｆ　Ｍｏｏｎ　Ｇｏｄ）１２



　 蟻の
一穴
　 大國主　身上調査報告ファイル
その１


　 　月神を閉じこめてカゴメに貼られている封印も丁寧に一枚ずつはがすことで 少しずつゆるんできて、 ついにその中でも最も難関の 大国主(オオクニヌシ)の封印にたどりついた。

　なぜかれが最難関と目されるのか。かれは出雲神話の主役を務めて 出雲の代表とみなされる人物なのだがその実名さえもわかっていない。 ただ有名なので漠然とわかっているような気がしているだけなのだ。 出生地も没した土地も不明である。

　大国主は全国の神社に以下のような別名で奉斎されている。
「オオクニヌシ、オオクニタマ関係、大国主神、 大国主命、 大国主大神、大国魂神、大国魂命、顕国玉神、 大和大国魂神、大国玉大神」
「オオナムチ関係、大己貴神、大己貴命、大己貴尊 、大己貴大神、 国作大己貴命、 大名持命、大穴牟遅命、大穴牟遅神、大名牟遅尊」
「その他、大物主神、 大物主大神、 八千矛神、八千矛大神 、葦原志許男神」

 　このように表記法や命、尊、神、大神など尊称が微妙に違う。 このうち、ニギハヤヒの別名が大国魂と大物主で八千矛大神 はスサノオであるから 故意にあるいは不注意に混同したそれらを除くと純粋にオオクニヌシを表す名前は 大国主、大己貴(大穴牟遅命)と葦原志許男くらいになる。

　その大国主、大己貴(大穴牟遅命)と葦原志許男は後年つけられた役名や職名のようなもので 親や親しい者が呼んだ本名ではないだろう。
偉人が死んだときに贈られるはずの 諡号(おくりな)もないから生前の人となりも見えない。手がかりを徹底的に廃してあるのだ。 本名を知られるとどんな不都合があるというのか。 なぜそこまでなにもかも隠さなければならなかったのか。

　それが呪術師たちの仕掛けたカゴメの封印のひとつであれば名前を隠すのは当然のことだった。 エジプトの太陽神ラーも 名前を知られると呪いを受けるので決して本名を明かさなかったことで有名である。 ユダヤの神もＹＨＶＨをどう読むのかわからない。

　ヒミコの名、大日霎貴(オオヒミコムチ)もオオヒルメムチと読むとして本名を隠している。 魏志倭人伝に卑弥呼と書かれているので本当はヒミコらしいとわかっただけである。 もし倭人伝がなければ現在われわれはかの女をヒルメと呼んでいるかもしれない。 邪馬台国の女王ヒミコが日向族であったことと「卑弥呼」の古代中国の発音が 日向(ヒムカ)に近いことは偶然だったのだろうか。 ヒミコの義弟たちも名前を残していないので呼びようがない。 わたしはかれらの性質がエジプト神話でオシリスを殺したセトに似ていて 瀬戸内海から四国へ逃げたので一応セトと呼んでいる。名付けることでやっと特定できる。 義弟たちでは対象があいまいになってだれのことかはっきりしなくしまう。 それが名前を残さない者の狙いであった。

○「穴埋め」

　かれら日向の呪術師(セト)たちは出雲族の力を封じる手段として呪術で 出雲の数、八の力を覆うことを考えた。 かれらは言霊、文字霊、そして見立てなどによるイメージを現実化する様々な呪術を使った。 それが「穴埋め」の法だった。

　すなわち、出雲の数、八の上にウカンムリをかぶせることで力を奪うのだ。 そのために選ばれたのがオオクニヌシである。

　大己貴、大穴持という変わった別名の「穴」の文字に意味がある。 出雲を八に見立ててこの穴にその力を埋めてしまうのだ。

　ヒミコの名、大日霎貴(オオヒミコムチ)の大と貴は美称と敬称であるから除いた部分が本名だった。 大己貴の場合も名前の核は「己」である。 己でオノと読むことからアナの発音の意味を含ませた。
そして大己貴で大きな土地(ナ)の主という意味になるから大国主を通称にした。 これは大物主で大国魂であるニギハヤヒと混同させやすい強力な封印になった。

　「己」はツチノトである。土の戸で出雲を封じることになる。 そして己は「土の弟(オト)」の意で 十干(ジッカン)の第六という。 「六」は八を土の戸がナベブタしている字なのだ。 　呪術師にはこれらの見立てによる強力なイメージ構成力があった。

○貴は日向の敬称

　それまでは命や尊が使用されていた敬称に 「貴」が使用されているのはヒミコの「大日霎貴」とオオクニヌシの「大己貴」だけである。 たまに宗像三女神にも使用されることはあるが一応、この二人だけということになっている。 本来はキやタットブと読む「貴」をムチと読ませるのも不自然だが 風土記などでは「大穴六道」と表記されることもある。 ヒミコもオオクニヌシもこの「貴」をムチと読ませることで「六」の力を持たせられ 出雲の八にナベブタをかぶせるために使われたのだ。 それが大国主、大己貴という名前の役割であった。
では次回からそのオオクニヌシの本名と実像に迫りたい。
(つづく)

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