小舟がひとつ


波が騒ぐ砂浜に　たったひとつ　小舟があった

月の光が青く小舟の影　映していた

寄せくる波が小舟をさそい　やがてかれを　もちあげた

静かに　小舟は進む　空と海のはざま

浜に別れをつげて　ながい旅にでた

道連れイルカたち　　舳（へさき）にとまるカモメ

そよぐ潮風　高い青空　はじめてみる広い世界
胸が弾んだ

やがてかれらは離れ

雨と風、嵐の中逆巻く波にだかれ、渦にのみこまれた

沈みもぐり、浮いては沈み　また浮いて

　 波が騒ぐ浜辺に　　こわれ朽（く）ちた小舟があった

子供たちが遊び　はげた小舟の名前　読み取った　それは「あい」だった
波が騒ぐ砂浜に　たったひとつ　小舟があった

月の光が青く小舟の影　映していた